ヒューマンエラーとは|原因ではなく“結果”である理由と防ぎ方
「またヒューマンエラーか…」
ニュースで事故やトラブルが報じられると、こうした言葉を見聞きすることがあります。
職場でも、
「確認不足だった」
「注意が足りなかった」
「もっと慎重にやるべきだった」
といった説明で終わる場面は少なくありません。
しかし、本当にそれだけで再発防止につながるのでしょうか。

もし“注意不足”だけが原因なら、注意している人はミスをしないはずです。ですが実際には、経験者でもベテランでもヒューマンエラーを起こします。
その理由は、ヒューマンエラーは「人の問題」ではなく、「人と環境の関係の中で起きる結果」だからです。
この記事では、ヒューマンエラーについて単なる定義解説で終わらず、
- ヒューマンエラーが起きる本当の理由
- 現場では何を見ればよいのか
- 再発防止のために何を改善すべきか
- 今日から実務で使える考え方
まで、現場目線でわかりやすく解説します。
- こういう人に向いている記事です
- まず最初にやること|“人を見る”のをやめて“状況を見る”
- ヒューマンエラーとは何か
- よくある誤解|ヒューマンエラー=原因ではない
- 【根拠】ヒューマンエラーは“結果”である|河野龍太郎氏の考え方
- 現場ではこう考える|「人がミスした」ではなく「なぜそうなったか」
- なぜヒューマンエラーが起きるのか|レヴィンの式で考える
- ヒューマンエラーは現場でどう起きるのか|具体例で考える
- 航空現場の具体例|なぜ“注意”だけでは防げないのか
- 現場で観察すべき4つのポイント
- ヒューマンエラーを防ぐ方法|実務で使える改善策
- 独自視点|現場で本当に危険なのは“人を責める文化”
- よくある質問|ヒューマンエラーは防げないの?
- まとめ|ヒューマンエラー対策で本当に見るべきこと
- この記事を読んだあとにやること
- 参考にした考え方・文献
こういう人に向いている記事です
この記事は次のような方に向いています。
- 安全担当者・管理者
- ヒヤリハット分析をしている人
- 部下指導で「注意しろ」以外の言葉を探している人
- 事故やミスの再発防止に悩んでいる人
- ヒューマンファクターを実務で活かしたい人
特に、「結局どう改善すればいいの?」と感じている方に役立つ内容です。

まず最初にやること|“人を見る”のをやめて“状況を見る”
結論から言うと、ヒューマンエラー対策で最初にやるべきことはシンプルです。
「誰が悪かったか」ではなく、「なぜその行動が自然に選ばれたのか」を見ることです。
例えば、
×「確認不足だった」
×「不注意だった」
×「経験不足だった」
で終わらせないこと。
代わりに、
- 時間に追われていなかったか
- 情報は見えやすかったか
- 手順は現実に合っていたか
- 疲労や焦りはなかったか
を確認します。
この視点が、再発防止のスタート地点になります。

ヒューマンエラーとは何か
まず、ヒューマンエラーはさまざまに定義されていますが、共通点をまとめると次のようになります。
ヒューマンエラーの特徴
- 人間の行為である
- 許容範囲から外れている
- 偶然ではない
つまり、「許容された範囲から外れた人の行動」と整理できます。
ただし、ここで重要なのが、ヒューマンエラーは“原因”ではなく“結果”であるという考え方です。
ここが、一般的な理解と現場の安全管理との大きな違いです。
よくある誤解|ヒューマンエラー=原因ではない
ヒューマンエラーについて、よくある誤解があります。
誤解①:「ミスした人が悪い」
これは最も多い誤解です。
確かに、最後に操作したのは人かもしれません。
しかし、
- なぜ見落としたのか
- なぜ間違いやすかったのか
- なぜその判断を選んだのか
を見なければ再発防止にはなりません。
人だけを責めても、環境が変わらなければ同じことが再び起きます。
誤解②:「注意すれば防げる」
注意は必要です。ただし、注意だけでは限界があります。
例えば、
- 疲労時でも絶対ミスしない
- 強いプレッシャー下でも完璧に判断する
- 情報量が多くても見落とさない
これは現実的ではありません。人間には認知能力の限界があります。
だからこそ、安全管理では「頑張らせる」ではなく、「ミスしにくい仕組みを作る」が重視されます。
誤解③:「ベテランはミスしない」
実際は逆です。経験は武器ですが、
- 慣れ
- 思い込み
- 省略
- 過信
につながることがあります。現場では、経験がリスクに変わる瞬間もあることを理解する必要があります。
【根拠】ヒューマンエラーは“結果”である|河野龍太郎氏の考え方
安全推進研究所代表の河野龍太郎氏は、著書『ヒューマンエラーを防ぐ技術』の中で次のように説明しています。
「ヒューマンエラーは、人間の本来持っている特性が、人間を取り巻く広義の環境とうまく合致していないために、結果として誘発されたものである」
ここで重要なのが、「広義の環境」という考え方です。
環境とは単なる職場の雰囲気ではありません。例えば次のようなものを含みます。
環境の例
- 計器や表示の見え方
- 作業スペース
- チェックリスト
- マニュアル
- 業務量
- 時間的プレッシャー
- 人員配置
- 天候など外的条件
- 組織文化
つまり、人は環境の中で行動を選ばされているとも言えます。
現場ではこう考える|「人がミスした」ではなく「なぜそうなったか」
現場で重要なのは、“誰が失敗したか”ではなく、“なぜその行動が自然に選ばれたのか”を見ることです。
例えば、
チェック漏れ
× 注意不足
○ 手順設計に問題があった可能性
見間違い
× 不注意
○ 表示や配置に問題があった可能性
判断ミス
× 能力不足
○ 情報提供や状況認識に問題があった可能性
ここで大切なのは、「起きた結果」だけを見ないことです。
現場では、その行動に至った背景を探ります。
なぜヒューマンエラーが起きるのか|レヴィンの式で考える
心理学者クルト・レヴィンは、人の行動を次のように表現しました。
B = f(P, E)
- B(Behavior):行動
- P(Person):人
- E(Environment):環境
つまり、行動は「人」と「環境」の相互作用で決まるという考え方です。
これは安全管理において非常に重要です。なぜなら、ミスは人だけでは説明できないことを示しているからです。

ヒューマンエラーは現場でどう起きるのか|具体例で考える
ここからは、実際の現場で起きやすいヒューマンエラーを例に考えてみます。
重要なのは、「その人が悪かった」で終わらせず、状況を見ることです。
ケース①:確認ミス|“やったつもり”はなぜ起きるのか
概要
ある作業者が、作業前確認を一部実施しないまま業務を進めてしまいました。
結果として、設定ミスが発生。
一見すると、「確認不足」で終わりそうです。
しかし背景を見ると、
- 業務が立て込んでいた
- 同時並行作業が多かった
- チェックリストが長く形骸化していた
- 「いつも大丈夫」という成功体験があった
という状況がありました。つまり、時間圧力 × 慣れ × 手順の使いにくさが重なった結果です。
現場ではこう考える
現場では、「なぜ確認しなかったか」ではなく、「なぜ確認しにくかったか」を見ることが重要です。
例えば、
- チェック項目が多すぎないか
- 優先順位が見えにくくないか
- 実運用に合っているか
を見直します。
ケース②:思い込みによるミス|経験がリスクになるとき
概要
経験豊富な作業者が、似た表示を見て「いつもの設定」と思い込み、別系統を操作してしまいました。
本人は真剣でした。
しかし、「たぶんいつも通りだろう」という認知の省エネが働いていました。
人は繰り返し経験すると、“見なくても分かる”状態になりやすくなります。
これは能力不足ではなく、人間の自然な特性です。
現場ではこう考える
重要なのは、経験があるほど確認設計が必要という視点です。
例えば、
- 似た表示を減らす
- 指差呼称を入れる
- 操作前確認を短く強制化する
などが有効です。

ケース③:疲労と焦りが判断を狂わせる
概要
忙しい時間帯。問い合わせ対応をしながら別作業を進めていた担当者が判断を誤りました。
後から振り返ると、「普通なら気づけた」内容でした。
しかし、
- 疲労
- マルチタスク
- 時間的プレッシャー
- 焦り
が重なると、人間の認知能力は低下します。これは心理学・人間工学の世界でも広く知られています。
現場ではこう考える
現場では、“人が弱かった”ではなく、“人が弱くなる条件が揃っていた”と考えます。
そのため、
- 忙しい時間帯の人員配置
- 作業中断の減少
- 重要作業時の割り込み防止
など、仕組み改善につなげます。

航空現場の具体例|なぜ“注意”だけでは防げないのか
航空では、ヒューマンエラーは個人責任だけで整理されません。
なぜなら、熟練のパイロットでもエラーを起こすことが前提だからです。
簡単な例を3つ紹介します。
① 計器配置や表示が紛らわしい
似た計器表示や情報過多は、見間違いを誘発します。これは不注意ではなく、設計上のリスクとして分析されます。
② 悪天候による認知負荷
悪天候時は、情報処理量増加、緊張、時間制約が重なります。その結果、注意力の低下が起きやすくなります。
つまり、「注意不足」ではなく、「注意を維持しにくい環境」が存在します。
③ マニュアルと現場運用のズレ
近年ではあまり見られませんが、マニュアルがしっかりと整備されていない現場では、手順通りでは回らないケースがあります。
すると、「現場流」が生まれます。しかしこのズレが大きいほど、エラー温床になりやすくなります。
現場ではこう考える
航空現場では、“人を教育する”だけではなく、“環境を改善する”という考え方が基本です。
そのため、
- SOP見直し
- CRMの徹底
- チェック設計
- ブリーフィング
などが重視されます。
現場で観察すべき4つのポイント
ヒューマンエラーを防ぐには、人ではなく状況を見ることが重要です。
特に次の4点は観察価値があります。
① 時間的余裕
確認したいポイント:
- 急かされていないか
- 同時作業になっていないか
- スケジュールに無理がないか
つまり、急ぎはエラーを増やすことに繋がる。これは多くの業界で共通します。
② 情報の見え方
確認ポイント:
- 表示は分かりやすいか
- 見間違えやすくないか
- 情報が多すぎないか
よくある誤解
「ちゃんと見れば分かる」。しかし実際には、“見える”と“認識できる”は別問題です。
③ 手順の現実性
確認ポイント:
- 実運用に合っているか
- 長すぎないか
- 省略したくなる設計ではないか
守られないルールは、現場に適合していないサインかもしれません。
④ 人の状態
確認ポイント:
- 疲労
- 焦り
- 慣れ
- 過信
- ストレス
人間の状態は常に変化すること前提で仕組みを作ることが重要です。
ヒューマンエラーを防ぐ方法|実務で使える改善策
対策の基本はシンプルです。それは人に頑張らせるのではなく、仕組みを変えるです。
ヒューマンエラー対策というと、「もっと注意する」、「気を引き締める」になりがちです。
しかし、注意力には限界があります。だからこそ重要なのは、“人が頑張らなくてもミスしにくい状態”を作ることです。
ここでは、現場で使いやすい考え方を紹介します。
① ミスしにくい設計にする(ポカヨケ)
最も効果が高いのは、間違えにくい環境を作ることです。
製造業などでは「ポカヨケ」と呼ばれます。
具体例
- 色や形で区別する
- 差し込み方向を限定する
- ラベルを見やすくする
- 操作順を自然に誘導する
- 間違った選択ができないUIにする
たとえば似たスイッチが並ぶ環境では、「ちゃんと確認する」より、“そもそも間違えにくくする”ほうが効果的です。
航空でも、自動化・警報・配置設計などで人的ミスを補完する考え方があります。
そもそも、注意に頼る対策は弱いというのが安全管理の基本です。人の集中力は一定ではありません。
だからこそ、ミスしても起きにくい構造を作ることが重要です。
② 確認を“気合い”ではなく“行動”にする
「確認します」は曖昧です。現場では、確認を具体的行動に変える必要があります。
具体例
- 指差呼称
- 読み上げ確認
- クロスチェック
- ダブルチェックの役割分担
たとえば、
×「ちゃんと確認してください」
○「声に出して読み合わせする(復唱する)」
のように変えます。
なぜ有効なのか
人は、“見たつもり”になりやすいからです。
声に出す・指差すことで認知が補強されます。
特に、“確認した”ではなく、“確認できる行動になっているか”を見ることが大切です。
③ 時間圧力を減らす
多くの現場で軽視されがちなのが、時間的プレッシャーです。
急ぎは認知能力を下げます。
具体例
- 作業時間の見直し
- 繁忙時間帯の応援体制
- 同時並行業務の削減
- 締切設定の余裕化
例えば、「急いで終わらせて」という言葉だけで、確認省略が起きやすくなります。本人は悪気なく、「早く終わらせるのが正解」と感じるからです。
つまり、急ぎを作った組織側にも要因があるという視点が必要です。
④ エラー前提で設計する
安全管理で非常に重要なのが、“人はミスする”前提です。
これは悲観論ではありません。現実論です。
良い対策の考え方
× ミスしない人を作る
○ ミスしても事故にならない仕組みを作る
たとえば、
- フェイルセーフ
- フールプルーフ
- ダブルチェック
- アラート設計
などがあります。
つまり、エラーゼロではなく、事故ゼロを目指すという考え方です。
これは航空・医療・原子力など高信頼組織(HRO)でも重視されています。
独自視点|現場で本当に危険なのは“人を責める文化”
ここからは私自身の現場視点も含めた話です。
ヒューマンエラーが起きたとき、「なんで確認しなかった?」、「意識が低い」という方向に話が進むことがあります。
ですが、この文化には注意が必要です。
なぜなら、“責められる職場”ほど本当の原因が見えなくなるからです。
人は責められると、
- 本音を言わない
- ミスを隠す
- 問題を報告しない
方向に動きます。すると、小さな異常が共有されず、大事故につながる可能性があります。
つまり重要なのは、「誰が悪いか」ではなく、「何が起きやすくしていたか」です。
もちろん責任整理は必要ですが、再発防止の議論では“背景”を見る姿勢が欠かせません。


よくある質問|ヒューマンエラーは防げないの?
結論から言うと、ゼロにはできません。ただし、減らすことはできます。
ポイントは、個人教育だけに依存しないことです。
実際に効果が高いのは、
- 環境改善
- 手順改善
- 確認設計
- 情報設計
- チームコミュニケーション改善
などの組み合わせです。
まとめ|ヒューマンエラー対策で本当に見るべきこと
ヒューマンエラーとは、許容範囲から外れた人の行動ですが、本質は、人と環境のミスマッチによって生じた“結果”です。
つまり、原因ではなく結果として考える必要があります。
そのため、重要なのは、
× 「誰が悪かったか」
○ 「なぜその行動が自然に選ばれたか」
を見ることです。
再発防止のためには、
- 時間的余裕を見る
- 情報の見え方を確認する
- 手順の現実性を見直す
- 人の状態(疲労・焦り・慣れ)を考慮する
- 仕組みでミスを防ぐ
という視点が欠かせません。
この記事を読んだあとにやること
まずは、職場や自分の現場で起きたミスを1つ思い出してみてください。
そして、「なぜミスしたのか?」ではなく、「なぜその行動が自然だったのか?」と問い直してみてください。すると、「確認不足」で終わっていたものが、
- 時間圧力
- 分かりにくい表示
- 守りにくい手順
- 疲労や思い込み
など、改善可能な要因として見えてくるはずです。
それが、再発防止の第一歩になります。
参考にした考え方・文献
書籍
- 河野龍太郎『ヒューマンエラーを防ぐ技術』(日本能率協会マネジメントセンター)
- James Reason『Human Error』
理論・考え方
- クルト・レヴィン「B = f(P, E)」
(行動は人と環境の相互作用によって決まる) - スイスチーズモデル(James Reason)
(事故は複数の防護壁の穴が重なったときに発生する)
本記事における見解について
本記事内の「現場ではこう考える」「独自視点」は、筆者の現場経験および安全管理・ヒューマンファクターの考え方を踏まえた見解です。一般理論と区別して記載しています。




