VTA分析とは|事故の流れを見える化して原因を整理する方法
VTA分析を紹介する前に、みなさんは事故やトラブルが発生したとき、
- 「不注意だった」
- 「確認不足だった」
- 「気をつければよかった」
という結論で終わってしまうことはありませんか?しかし、そのような分析では再発防止につながりにくいのが実情です。
なぜなら、「なぜ事故が起きたのか」ではなく、「誰が悪かったのか」に焦点が当たってしまうからです。
事故分析で重要なのは、事故に至るまでに何が起きたのかを時系列で整理することです。そこで活用されるのが、VTA分析(Variation Tree Analysis)という手法です。
この記事では、
- VTA分析とは何か
- なぜ事故分析で有効なのか
- 基本的なやり方
- 現場で活用するポイント
を初心者向けにわかりやすく解説します。
この記事は次のような方におすすめです。
- ヒヤリハット分析を担当している方
- 事故調査や再発防止に関わる方
- 安全担当者・管理職
- SMS(安全管理システム)を学んでいる方
- なぜなぜ分析だけでは限界を感じている方
まず始めにやっていただきたいこととして、過去のヒヤリハットや事故報告書を1件用意してください。そして、「事故が起きた瞬間」だけではなく、「その30分前、1時間前に何が起きていたか」を書き出してみてください。
実は事故の原因は、事故が発生した瞬間ではなく、その前の流れの中に隠れていることが多いのです。

VTA分析とは何か
VTA分析(Variation Tree Analysis)とは、事故やトラブルに至るまでの流れを時系列で整理し、どのような変動(通常と異なる出来事)が事故につながったのかを明らかにする分析手法です。
簡単に言えば、「事故までのストーリーを見える化する方法」とも言えます。事故を単独の出来事として見るのではなく、事故発生までの一連の流れとして捉えることが特徴です。
VTA分析が必要な理由
事故が発生すると、つい次のような分析をしてしまいがちです。
- 不注意だった
- 確認不足だった
- 判断ミスだった
しかしこれらは、実は原因ではなく結果であることが少なくありません。
例えば、「確認不足だった」という結論だけでは、なぜ確認しなかったのかが分かりません。
- 時間に追われていたのか
- 手順が複雑だったのか
- 思い込みがあったのか
が見えなくなってしまいます。
そこでVTA分析を使うと、事故に至るまでの流れ全体を整理できるようになります。
現場ではこう考える
事故調査の現場では、事故発生後すぐに「誰が何を間違えたのか」を探したくなります。しかし安全管理では、「事故までに何が起きていたのか」を重視します。
実際、多くの事故は一つのミスではなく、複数の出来事が連鎖して発生しています。
VTA分析は、その連鎖を見える化するための手法です。
VTA分析の基本的な考え方
まず、VTA分析では、事故に至る流れをノード(出来事)として整理します。下図は私が例として作成したものです。これをもとに解説していきます。

まず、四角で囲まれた「事象」は「ノード」といい、一般的には次の3種類に分類されます。
通常ノード
普段通りの出来事です。
例
- 朝礼を実施した
- 作業を開始した
- 点検を行った
変動ノード
通常とは異なる出来事です。
例
- 作業開始が遅れた
- 点検項目を変更した
- 担当者が急遽交代した
排除ノード
事故に直接むずびついてしまった出来事です。つまり、この排除ノードがなければ、事故にいたらなかったとされる出来事のことです。
例
- ダブルチェックを実施しなかった
- 警報を見落とした
- 確認手順を省略した
VTA分析のやり方
STEP1 事実を時系列で整理する
まずは事故に関係する事実を書き出します。
例
- 作業開始
- 作業員交代
- 確認手順を省略
- 誤操作発生
- トラブル発生
重要なのは、評価ではなく事実を書くことです。
悪い例
- 不注意だった
- 気が緩んでいた
良い例
- 指差呼称を実施しなかった
- 点検項目を確認しなかった
STEP2 分岐を考える
次に、「別の流れになっていた可能性」を考えます。
例えば、
- 確認していればどうなったか
- 応援要員がいればどうなったか
- 手順通りならどうなったか
を整理します。
これがVTA分析の特徴です。
STEP3 事故に直結した出来事を特定する
最後に、事故に直接つながった出来事を特定します。
例えば、
- 誤ったスイッチ操作
- 確認漏れ
- 手順逸脱
などです。これを直接原因と呼びます。この直接原因に対し、根本原因分析として「なぜなぜ分析」をしていき、「真の要因」を見つけるわけです。
具体例
事例① 点検漏れによる機器トラブル
事故結果:機器が停止した
VTAで整理すると:
- 人員不足だった
- 点検時間が短縮された
- 点検項目を一部省略した
- 異常を見逃した
- 機器停止
という流れが見えてきます。
事例② ヒヤリハット分析
結果:車両同士が接触しそうになった
VTAで整理すると:
- 朝礼が短縮された
- 危険箇所共有ができなかった
- 作業エリアが重複した
- 接触寸前となった
という流れが確認できます。
よくある誤解
「VTA分析は難しい」
専門的に見えるかもしれませんが、基本は「出来事を時系列で並べる」だけです。時間はかかりますが、誰にでもできる手法です。
「原因を探す分析である」
VTA分析は原因追及だけが目的ではありません。本来は、「事故までの流れを理解するための分析」です。
「犯人探しのための手法」
逆です。つまり、VTA分析は個人を責めるのではなく、事故の背景を理解するための手法です。
VTA分析のメリット
VTA分析を行うことで、
- 事故の流れが見える
- 関係者間で共通認識を持てる
- 直接要因を明確にできる
- なぜなぜ分析につなげやすい
というメリットがあります。特に、「いきなりなぜなぜ分析を始めない」ことが重要です。まず、流れを整理してから原因を掘り下げる方が、分析の精度は高くなります。
まとめ|事故の流れを見える化することが再発防止の第一歩
VTA分析とは、事故やトラブルに至るまでの流れを時系列で整理し、直接要因を明らかにする分析手法です。
事故分析では、「不注意だった」という評価ではなく、「何が起きたのか」という事実を見ることが重要です。そのため、VTA分析は事故調査だけでなく、ヒヤリハット分析や安全教育にも活用できます。

この記事を読んだあとにやること
まずは過去のヒヤリハットを1件選び、次の3つを書き出してみてください。
- 事故発生までの流れ
- 通常と異なっていた出来事
- 事故に直結した出来事
これだけでも、見えていなかった背景が見つかることがあります。
次の記事
VTA分析によって、事故までの流れと直接要因を整理することができました。では、「なぜその直接要因が起きたのか?」はどのように分析すればよいのでしょうか。
次の記事では、なぜなぜ分析(Why-Why Analysis)とは何かについて、安全管理の視点からわかりやすく解説します。
参考にした考え方・文献
- 河野龍太郎『ヒューマンエラーを防ぐ知恵』
- 河野龍太郎『入門 ヒューマンエラー』
- James Reason『Human Error』
- 中央労働災害防止協会 安全管理資料
- Variation Tree Analysis(VTA)に関する安全工学資料
※「現場ではこう考える」は、筆者の安全管理実務経験やヒューマンファクターの考え方をもとに記載しています。一般論とは区別してお読みください。




