m-SHELLモデルとは|原因を対策につなげる考え方
今回の記事ではm-SHELLモデルについて解説していきます。
まず始めに、事故やトラブルが発生したあと、
にもかかわらず、「結局どんな対策をすればいいのだろう?」と悩んだ経験はないでしょうか。実際の現場では、
- 注意を徹底する
- 気をつける
- 意識を高める
といった、人の努力に頼った対策で終わってしまうことが少なくありません。しかし、ヒューマンエラー対策で本当に重要なのは、人を変えようとするのではなく、仕組みや環境を改善することです。
そこで役立つのが m-SHELLモデル です。この記事では、ヒューマンエラーの原因を体系的に整理し、再発防止策につなげるための考え方であるm-SHELLモデルについてわかりやすく解説します。



この記事はこんな人におすすめ
- ヒヤリハットや事故分析を担当している方
- なぜなぜ分析の次に何をすればよいか知りたい方
- 安全担当者や管理職の方
- ヒューマンエラー対策を体系的に学びたい方
- 「注意します」で終わらない再発防止策を作りたい方
まず最初にやること
最初は、m-SHELLモデルを使う前に、まず以下を整理しましょう。
① 発生した事実を整理する
- 何が起きたのか
- どのような流れだったのか
② 直接原因を特定する
VTA分析などを用いて、事故に直結した行動や事象(直接原因)を明らかにします。
③ 根本原因を整理する
直接原因に対し、なぜなぜ分析を使い、「なぜその行動が起きたのか」を深掘りします。
つまり、m-SHELLモデルは根本原因を見つける手法というより、見つけた根本原因を対策につなげるための手法と考えると理解しやすくなります。
m-SHELLモデルとは
まず、m-SHELLモデルとはヒューマンエラーの原因を体系的に分析するためのフレームワークです。そして、航空業界を中心に発展したSHELLモデルに、Management(管理)を加えたものがm-SHELLモデルです。

構成は以下の通りです。
m:management(管理、監督)
組織全体の方針や管理体制に関する要素です。
- 安全方針
- 管理監督体制
- 教育計画
- リスク管理
- 安全文化
S:software(手順・ルール)
手順書やマニュアルなど、仕事の進め方に関する要素です。
- 作業手順書
- マニュアル
- チェックリスト
- 規程類
H:hardware(機械・設備)
設備や機器など、物理的な要素です。
- 操作パネル
- 車両
- コンピューター
- 工具
- 保護具
E:environment(環境)
作業環境や周囲の状況です。
- 温度
- 湿度
- 騒音
- 照明
- 天候
- 作業スペース
L(中央の):liveware(当事者)
作業を行う本人の状態です。
- 疲労
- ストレス
- 知識不足
- 技能不足
- 体調不良
L(外側の):liveware(当事者以外)
チームや組織内の人間関係に関する要素です。
- コミュニケーション
- チームワーク
- リーダーシップ
- 権威勾配
- 情報共有
なぜ図が波線になっているのか
まず、m-SHELLモデルの図を見ると、各要素の境界が波線で描かれています。これは、人や各要素の特性による適合状態(インターフェース)を表しています。
つまり、波線同士がうまく噛み合わないときに、ヒューマンエラーが発生しやすくなるのです。
例えば、人が機械を操作しているときに誤操作があった、という事象があったとします。そして、これをなぜなぜ分析した結果、根本原因の一つとして「見えにくい表示」がでてきました。これは「人の認知的特性」と「機械そのものの特性」が合致していない(波線があわなかった)、つまりL-Hの問題と解釈します。


なぜm-SHELLが必要なのか
事故分析をしていると、「本人の注意不足」で終わってしまうケースをよく見かけます。
しかし実際には、その背後に
- 分かりにくい手順
- 不十分な教育
- 過密な勤務
- 言いにくい職場風土
などが隠れていることが少なくありません。さらに私自身、安全に関する活動の中で感じることは、事故は個人だけで起きることは少なく、複数の要因が重なって発生することが多いということです。
そして、m-SHELLモデルは、そうした背景要因を整理し、組織として改善するための視点を与えてくれます。

m-SHELLモデルの使い方
まず、VTA分析で導出した直接原因(排除ノード等)に対し、なぜなぜ分析で出た真の要因(根本原因)をm-SHELLモデルにあてはめ、それぞれの真の要因に対する対策を構築します。
ここでも簡単なフォーマットを作成したので紹介しておきます。
| 発生事象 | ||||||
| 直接原因 | ||||||
| 分 類 | m | L | LーL | LーS | LーH | LーE |
| 根本原因 | ||||||
| 対 策 | ||||||
よくある誤解
誤解① m-SHELLは原因分析手法である
正確には、原因を整理し対策につなげるためのフレームワークです。
原因そのものは、VTA分析やなぜなぜ分析で明らかにします。
誤解② 人の教育だけすれば解決する
教育は重要ですが、それだけでは不十分です。
設備や手順、環境なども同時に改善する必要があります。
誤解③ 必ずどれか一つに分類する
実際の事故は、複数の要因が絡み合っています。よって、なぜなぜ分析で導出した真の要因が、m-SHELLモデルでの分類が一つだけということは、ほぼありません。一つにかたよってしまっている場合は、なぜなぜ分析を違う視点から見るほうがいいでしょう。要するに、多数の分類の真の要因に対し、それぞれ対策を取ることが事故の再発防止になります。
まとめ|m-SHELLモデルは「対策の漏れ」を防ぐための道具
m-SHELLモデルは、ヒューマンエラーの背景要因を
- Management(管理)
- Software(手順)
- Hardware(設備)
- Environment(環境)
- Liveware(本人)
- Liveware(他者)
の視点から整理するフレームワークです。
重要なのは、「人が悪い」で終わらせず、仕組みや環境まで視野を広げることです。
この記事を読んだあとにやること
まずは過去のヒヤリハットやトラブルを一つ選び、原因をm-SHELLモデルで分類してみてください。すると、これまで見えていなかった改善ポイントが見つかるかもしれません。
参考にした考え方・文献
一般論として参考にしたもの
- ICAO(International Civil Aviation Organization)Safety Management Manual
- Hawkins, F.H. Human Factors in Flight
- 河野龍太郎『ヒューマンエラーを防ぐ知恵』
- James Reason『Human Error』
- ICAO Human Factors Training Manual





