ヒューマンエラーの原因まとめ|身体的・認知的・集団的特性
「なぜ人はミスをするのか?」
安全管理や事故防止を学び始めると、多くの人がこの疑問に行き着きます。
ヒューマンエラーが発生すると、
- 注意不足だった
- 確認が甘かった
- 慣れが原因だった
といった説明で終わってしまうことがあります。しかし実際には、それだけでは十分ではありません。なぜなら、人間には生まれながらに持っている特性(ヒューマンファクター)があり、それがヒューマンエラーの背景に存在するからです。

本記事では、これまで解説してきた内容を整理しながら、
という3つの視点から、ヒューマンエラーの原因を体系的に解説します。
そして、この記事を読むことで、「なぜミスが起きるのか」を個人の能力や性格ではなく、人間の特性という視点から理解できるようになります。
次のような方におすすめです。
- ヒューマンエラーについて体系的に学びたい方
- 安全管理やSMS(安全管理システム)を学んでいる方
- ヒヤリハット分析を行う方
- 安全教育の担当者
- 「なぜ同じようなミスが繰り返されるのか」を知りたい方
この記事を読む前に、最近経験したヒヤリハットやミスを一つ思い出してみてください。

そして、
- 疲れていなかったか
- 思い込みはなかったか
- 周囲の影響を受けていなかったか
を振り返ってみてください。実は、多くのヒューマンエラーは一つの原因ではなく、複数のヒューマンファクターが重なって発生しています。この記事では、その見方を身につけることができます。

ヒューマンエラーの本質とは
まず重要なのは、ヒューマンエラーは能力不足だけで起きるものではないということです。
人は誰でも、
- 見間違える
- 思い込む
- 疲れる
- 周囲に流される
という特性を持っています。
つまり、ヒューマンエラーは「特殊な人が起こすもの」ではなく、「誰にでも起こり得るもの」なのです。
この考え方は、ジェームズ・リーズン(James Reason)のヒューマンエラー研究でも示されています。
現場ではこう考える
事故やトラブルが発生すると、「誰が悪かったのか」に目が向きがちです。しかし安全管理の現場では、「なぜその人がそう行動したのか」を考えます。
人を責めるだけでは再発防止につながりません。原因となったヒューマンファクターを理解することが重要です。
ヒューマンファクターとは
ヒューマンファクターとは、人間がもともと持っている身体的・心理的・社会的特性を指します。そして最も重要なポイントは、人間の基本特性は変えられないということです。
だからこそ安全管理では、「人を変える」のではなく「環境や仕組みを変える」という考え方が重視されます。

ヒューマンエラーの3つの原因
まず、ヒューマンファクターは大きく次の3つに分類できます。
① 身体的特性
身体的特性とは、人間の身体機能による影響です。そして、どれだけ優秀な人でも、身体の影響から完全に逃れることはできません。

主な要因
- 体温リズム(サーカディアンリズム)
- 加齢
- 暗順応・明順応
- 疲労
現場の具体例
① 夜明け前の判断ミス
体温が最も低くなる時間帯は、注意力や判断力が低下しやすいことが知られています。
② 疲労による確認漏れ
長時間勤務の終盤で、普段なら気づくはずの異常を見落とす。
③ 加齢による見落とし
小さな文字や表示の識別が難しくなり、確認ミスにつながる。
どんなエラーにつながるか
- 見落とし
- 操作ミス
- 判断ミス
② 認知的特性
認知的特性とは、人間の脳の情報処理の特徴です。人は情報をそのまま認識しているのではなく、経験や期待をもとに解釈しています。

主な要因
- 思い込み
- 正常化の偏見(正常性バイアス)
- 記憶の限界
- 注意の限界
- 期待的聴取
具体例
① 思い込みによる確認ミス
「いつも通りだろう」と考え、表示の異常を見逃した。
② 聞き間違い
指示を受けた際、自分が予想していた内容として聞いてしまった。
③ 正常化の偏見
異常な音がしていたが、「大したことはないだろう」と判断した。
現場視点のひと言
現場経験上、事故後の振り返りでは「違和感はあった」という話がよく出てきます。しかしその時は、「たぶん大丈夫」と判断してしまっている。
これは本人の能力不足ではなく、認知的特性による影響とも言えます。
どんなエラーにつながるか
- 錯覚
- 確認漏れ
- 誤判断
- 情報の誤認
③ 集団的特性
集団的特性とは、チームや組織の中で生まれる心理的影響です。人は一人でいる時と、集団の中にいる時では判断が変わることがあります。

主な要因
- 権威勾配
- 同調バイアス
- 社会的手抜き
- リスキーシフト
- グループシンク(集団浅慮)
具体例
① 上司に意見を言えない
危険に気づいていたが、ベテランの判断に従ってしまった。
② 周囲に流される
本当は不安だったが、全員が賛成していたため反対できなかった。
③ 誰かがやると思った
複数人で確認していた結果、誰も確認していなかった。
どんなエラーにつながるか
- 意見が言えない
- 危険な判断への追従
- ミスの見逃し
- 責任の分散
ヒューマンエラーはどのように現れるのか
ヒューマンファクターは、そのまま事故になるわけではありません。
多くの場合、次のような行動として現れます。
錯覚(Illusion)
状況を誤って認識する
不注意(Inattention)
見落としや確認漏れが発生する
近道行動(Shortcut Action)
効率を優先して手順を簡略化する
省略行動(Omission Action)
必要な手順を飛ばしてしまう
ポイント
つまり、特性(原因) → 行動(エラー) → 事故・トラブルという流れで発生します。
そのため、表面上のミスだけを見るのではなく、背景にあるヒューマンファクターを考えることが重要です。
よくある誤解
①「ヒューマンエラーは注意不足が原因」
注意不足は結果として現れた状態であり、
その背景には、
- 疲労
- 思い込み
- 同調圧力
などが存在することがあります。
②「経験者ならミスをしない」
経験は強みですが、一方で
- 慣れ
- 思い込み
- 過信
につながることもあります。
③「ミスした本人が悪い」
安全管理では、人だけでなく環境や組織も含めて考えることが重要です。
まとめ|ヒューマンエラーを理解する第一歩
ヒューマンエラーの背景には、
- 身体的特性
- 認知的特性
- 集団的特性
という3つのヒューマンファクターがあります。
そして重要なのは、人は必ずエラーを起こす可能性があるという前提に立つことです。
安全は、「ミスをしない人」を育てることではなく、ミスが起きても事故につながらない仕組みを作ることとも言えます。
この記事を読んだあとにやること
- 最近のヒヤリハットを1件振り返る
- 原因を「身体・認知・集団」の3つで分析してみる
- 個人だけでなく環境や組織の要因も考えてみる
次の記事
ここまでで、ヒューマンエラーの原因(ヒューマンファクター)について整理しました。
では、これらのヒューマンファクターに対して、どのような対策を取ればよいのでしょうか。
次の記事では、「ヒューマンエラーの原因の対策として基本的な考え方と実践方法」について体系的に解説します。
参考にした考え方・文献
- James Reason『Human Error』
- 河野龍太郎『ヒューマンエラーを防ぐ知恵』
- ICAO Human Factors Training Manual
- Kurt Lewin「B = f(P, E)」(行動の法則)
※「現場ではこう考える」「現場視点のひと言」は筆者の経験・見解を含みます。一般論とは区別して記載しています。




