ヒューマンエラーはなぜ起きる?6つの集団的特性を解説
「本当は違うと思っていたのに言えなかった」
「誰かが確認していると思っていた」
「チームで決めたことだから大丈夫だと思った」
このような経験はないでしょうか。ヒューマンエラーというと、「個人のミス」「不注意」と考えられがちです。しかし実際の現場では、多くの仕事がチームや組織の中で行われています。
つまり、“集団だからこそ起きるヒューマンエラー”が存在するのです。
たとえば、
- 上司に意見を言えない
- 周囲に合わせてしまう
- 「誰かがやるだろう」と考えてしまう
- チームで強気な判断に流される
といった心理です。
これらは個人の性格の問題ではなく、人間が集団に入ると自然に起こる心理的特性です。
この記事では、ヒューマンファクターの一つである集団的特性について、「なぜチームでヒューマンエラーが起きるのか?」を現場例とともにわかりやすく解説します。

こういう人に向いている記事です
この記事は次のような人に向いています。
- 安全管理やヒューマンエラーを学びたい人
- チームで働く現場(消防・航空・医療・製造など)の人
- 「なぜ現場で同じミスが繰り返されるのか」を知りたい人
- 安全教育や新人教育に関わる人
- アサーションやCRM(Crew Resource Management)に興味がある人
集団的特性とは何か
これまでの記事では、
について解説してきました。しかし現実の仕事では、一人で完結する仕事の方が少ないのではないでしょうか。人は、チーム・組織・上下関係の中で行動します。すると、個人だけでは起きなかった判断ミスが生まれます。これが、集団的特性です。
集団には、
- 作業効率が上がる
- 複雑な仕事ができる
- 知識を補完できる
という強みがあります。一方で、集団だからこそ生じる心理的リスクもあります。


現場ではこう考える|「良い人の集まり」でも事故は起きる
事故やトラブルが起きると、「誰かが悪かった」と考えたくなります。しかし実際には、真面目で優秀な人たちのチームでも事故は起きます。なぜなら、集団心理は能力や人格に関係なく働くからです。つまり、安全管理で重要なのは、“人を責める”ではなく“集団の特徴を理解する”ことです。
1. 権威勾配|上司に言えない心理
権威勾配とは、上司・先輩・リーダーとの力関係(上下関係)を指します。簡単に言えば、「言いづらさ」の傾きです。
権威勾配が強すぎる場合
上下関係が強いと、
- 上司の判断が絶対になる
- 間違いに気づいても言えない
- 指摘や提案が止まる
という状態になります。つまり、「気づいていたのに止められない」が起こります。
具体例
- ベテランの判断に違和感があっても黙る
- 会議で誰も異論を言わない
- 指示に疑問があっても従ってしまう
現場ではこう考える
現場では、「言えなかった」は組織リスクと考えます。たとえば航空CRMでは、上下関係に関係なく、安全に関する意見を言える文化が重要視されます。実際、重大事故の背景には「違和感があったが言えなかった」ケースが少なくありません。
よくある誤解
「言わないのは本人の責任」
実際には、言いづらい環境が問題である場合も多くあります。
根拠となる研究
心理学者スタンリー・ミルグラムの有名な実験では、人は権威に従いやすいことが示されています。※Milgram Experiment(1963)
2. 同調行動・同調バイアス|みんながそうだから大丈夫
人は、周囲に合わせようとする傾向があります。これを、同調行動と呼びます。
具体例
- 誰も異議を言わないので黙る
- 「みんなやっているから」で確認を省略する
- 危険だと思っても周囲に合わせる
抽象化した現場ケース
ある現場で、「少し危険では?」という手順がありました。しかし、長年続いており誰も問題視していませんでした。新人も、「みんながやっているなら正しい」と思い込み、そのまま実施。結果として、ヒヤリハットが発生しました。
ここで問題なのは、個人ではなく“集団の空気”です。
現場ではこう考える
安全管理では、「沈黙=同意」ではないと考えられます。本音が言える環境づくりが重要です。
だから、
- 指名して意見を聞く
- あえて反対意見を求める
- アサーションを促す
といった工夫が行われます。
よくある誤解
「みんなが賛成=正しい」
違います。集団は、間違った方向にも一致します。
3. 社会的手抜き(リンゲルマン効果)|誰かがやるだろう
人数が増えると、一人あたりの努力が下がる現象があります。これを、社会的手抜き、またはリンゲルマン効果と呼びます。
なぜ起きるのか
集団では、「誰かがやるだろう」という心理が働きます。結果として、責任が分散します。
具体例
- 「誰かが確認しただろう」と思う
- 点検担当が曖昧になる
- 情報共有が抜け落ちる
現場ではこう考える
現場経験上、事故後によく出る言葉があります。
「確認したと思っていた」
しかし、実際には、“誰も確認していなかった”ということがあります。だから現場では、役割と責任を明確化することが重要です。
例えば、「誰が」「何を」「いつまで」を決めます。
よくある誤解
「人数が増えれば安全になる」
必ずしもそうではありません。人数が増えるほど、責任の所在が曖昧になるリスクもあります。
4. リスキーシフト|集団になると強気になる心理
人は、集団で意思決定すると、個人よりもリスクの高い判断をしやすくなる傾向があります。これを、リスキーシフトといいます。簡単に言えば、チームになると「少しくらい大丈夫」が強くなる現象です。
なぜ起きるのか
理由としては、
- 強気な意見が目立ちやすい
- 慎重な人が発言しづらくなる
- 責任が分散される
ことが挙げられます。
結果として、“攻めた判断”に偏りやすいのです。
具体例
- 悪天候でも「行けそうだから行く」と判断する
- 「前回もうまくいった」でリスクを軽視する
- 周囲が強気なので慎重意見を言えない
抽象化した現場ケース
あるチームで、当初は慎重論がありました。しかし、経験者が「この程度なら問題ない」と発言。すると空気が変わり、次第に全体が、「大丈夫だろう」という方向に流れました。結果、トラブル発生後に「実は少し不安だった」という声が出たそうです。
重要なのは、“危険な人がいた”のではなく、“集団心理が働いた”という視点です。
現場ではこう考える
現場では、“楽観論が強くなった時ほど危険”と考えることがあります。
そのため、あえて「やらない理由」「危険要素」を出す時間を作ることがあります。
これは安全確認やCRMでも重視される考え方です。
よくある誤解
「強気な判断=経験豊富」
とは限りません。むしろ、“慣れ”や“成功体験”が危険認識を下げることがあります。
5. 集団浅慮(グループシンク)|まとまりを優先しすぎる危険
チームワークは大切です。しかし、まとまりが強すぎると危険になることがあります。これを、集団浅慮といいます。
心理学者アーヴィング・ジャニス(Irving Janis)が提唱した概念です。
簡単に言うと、「空気を壊したくない」が安全より優先される状態です。
特徴
集団浅慮が起きると、
- 「自分たちは正しい」と思い込む
- 反対意見が出にくい
- 外部意見を軽視する
- 違和感が無視される
といった状態になります。
具体例
- 会議で異論が出ない
- 「前回成功したから今回も大丈夫」
- 外部からの指摘を軽視する
現場ではこう考える
安全の現場では、“全員一致”を危険信号と考えることもあるくらいです。
もちろん一致自体が悪いわけではありません。
ただ、「本当に全員が納得しているのか?」は確認する必要があります。
そのため、
- あえて反対意見を求める
- 「最悪のケース」を考える
- デビルズ・アドボケイト(反対役)を置く
などの方法が使われます。
よくある誤解
「仲が良いチームほど安全」
実際には、“言いにくいほど仲が良い”場合もあります。
つまり、心理的安全性 ≠ 仲良しです。
6. 身内意識・外集団への無関心|「うちは大丈夫」が危険
人は、自分の所属する集団を守ろうとする傾向があります。これは自然な心理です。
しかし行き過ぎると、安全上のリスクになります。
起きやすい行動
- 身内のミスを指摘しない
- 問題を隠す
- 他部署の事故を軽視する
- 「自分たちは違う」と思い込む
具体例
- 同僚への遠慮で注意しない
- 他チームの事例を学ばない
- 「うちでは起きない」と考える
現場視点のひと言
現場経験上、事故情報や他部署事例を共有すると、「うちは関係ない」という反応が出ることがあります。しかし、安全管理では“他人事を自分事にできるか”が非常に重要です。
事故は、似た条件で繰り返される傾向があります。だからこそ、他部署・他組織の事例にも学ぶ価値があります。
よくある誤解
「仲間を守る=指摘しない」
本当の意味で守るなら、危険を伝えることも必要です。
まず最初にやること|チームの“言いにくさ”を観察する
この記事を読んだら、まずは職場やチームを見渡し、これまで紹介した集団的特性がないか探してみてください。
そして、次の問いを考えてみましょう。
- 上司に違和感を言えるか?
- 誰か任せになっていないか?
- 異論を言いやすい雰囲気か?
- 「うちは大丈夫」が増えていないか?
もし一つでも当てはまるなら、集団的特性が安全に影響している可能性があります。
まとめ|集団になると人は判断が変わる
集団的特性には、
- 権威勾配(Authority Gradient)
- 同調行動・同調バイアス
- 社会的手抜き(リンゲルマン効果)
- リスキーシフト
- 集団浅慮(グループシンク)
- 身内意識・外集団への無関心
があります。
そして、これらはすべてチームだからこそ起こるヒューマンエラーの要因です。重要なのは、「良い人の集まりなら安全」ではないという前提を持つことです。むしろ、集団になると個人とは違う心理が働くことを理解し、対策を考える必要があります。
そのためには、
- 発言しやすい雰囲気を作る
- アサーションを促す
- 役割と責任を明確にする
- 異なる意見を歓迎する
- 他部署事例を学ぶ
といった、コミュニケーションと組織づくりが重要になります。
この記事を読んだあとにやること
- 自分の職場で「言いにくさ」がないか考える
- 最近のヒヤリハットを“集団心理”で振り返る
- 「注意する」以外の組織的対策を1つ考える
次の記事
では、こうした集団的特性に対して、現場ではどのような対策ができるのか?
今後の記事では、チームのヒューマンエラーを防ぐ具体策(CRM・アサーション・安全文化)について解説します。
参考にした考え方・文献
- Stanley Milgram(1963)『Behavioral Study of Obedience』
- Max Ringelmann(リンゲルマン効果)
- Irving Janis『Groupthink』
- James Reason『Human Error』
- 河野龍太郎『ヒューマンエラーを防ぐ知恵』
- ICAO Human Factors Training Manual
※「現場ではこう考える」「現場視点のひと言」は筆者の経験・見解を含みます。一般論とは区別して記載しています。




